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祭りの前夜に真人はばあ様に呼ばれていた。
足もとの草は水を含んで、ぴしゃりと脛を打つ。
夏の虫が既に小さな声をあげ始めていた。
お社の前までくると月明かりで照らされた林が不気味に揺れているのがはっきり見えた。
その奥に、大きな洞窟があり、この村では権威のある「夢見の巫女」が住んでいる。
大きな力が加わったかの様に、真人はばあ様の洞窟へ吸い込まれていく。
洞内はほの暗く、松明が心許無く揺れる。
奥まった空間に鎮座したばあ様は、百年近く生きた証をいたるところに刻みながら、真人を見上げた。
「座りなさい」
これから祭りだというのに、ばあ様の声はいつものように穏やかではない。
半ば魔法にかかったかの様に真人が彼女の前に座るとも ぞもぞと動いてばあ様は語り始めた。
「真人」
「何ですか?」
「言っておかねばならぬ事がある」
ばあ様の声はかすれていて聞き取りにくい。
そのかすれた声に、真人はばあ様の怯えを感じ取った。
なにか、起こるんだ。
これからの出来事も、真人はなんとなく感じ取っていた。
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