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棗と佐貴良 、二人はたいてい一緒にいる。
兄弟ではなかったが、それにほぼ近かった。
同い年で同じ背格好、遠くから見れば驚くほど似ているのに、誰一人間違うことはない。
性格は正反対だからだ。
仲が良いのか、二人の調和は乱れを知らなかった。
佐貴良は整った面長な顔立ちで、漆黒の瞳をしている。
それとは逆に、棗の顔は少年そのもので、いくらか佐貴良より幼く見える。
「手伝おうか?」
言いながら佐貴良はもう棗の洗いものに手を伸ばしている。
「ううん。大丈夫。俺の仕事だし、佐貴良は少し休んでたら?」
手を進めて、棗は佐貴良に笑顔を向けた。
小さな子どもが親に得意そうに笑う顔に似ている。
「じゃあ、あっちで座ってるよ。星でも見ようかな」
佐貴良は笑みを浮かべて、馬小屋の向こうへと歩いて行った。
といでもいないのにサラリとした黒髪が束ねた背中でたおやかに左右に舞う。
いつの間にかあたりは藍で染まり、月や星が出ていた。
月明かり、星明かり、全てが集まったかの様に、佐貴良の髪は黒く輝いている。
棗はそんな佐貴良がふとした拍子に、皇の血をひいていても不思議はないとさえ思ってしまう。
すらっとしたいでたちは、どこかの王のようだったから。
実際、佐貴良はこの国の者ではない。
彼は近江盆地の外から樂人の母と一緒に移り住んできた少年だ。
昔から、山向こうへ行きたいと思っていた棗にとって、佐貴良は外界の話を聞ける貴重な存在だった。
それももう 、10年前のことだ。
今では、彼もすっかりこの地に馴染んでいる。
(佐貴良がここに来てくれて良かった……)
棗は最近そう思うようになっていた。
「もう、終わった?」
「うん。いい感じ」
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