ダム、廃村、思い出

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 佐藤がどうしているのかは知らないが、母さんから佐藤との関係について尋ねられたことはないのでむこうも上手く誤魔化しているのだろう。完璧な偽装工作だな。  料理の下手な母さんなのに、不思議なことに今日の出来は中々だ。普通に食えるし、ご飯もパラパラだった。いつも使われる具材と今日は違う。 「今日のチャーハン、変わったね」 「素直に美味しいって言いなさい」 「うん、美味しい」  むう、これでは料理の下手な母さんではなく普通の母さんじゃないか! 嘆くところじゃないなこれ、喜ぼう。母もきっと練習していたのだろう。その成果のチャーハン。なかなか美味い。  今日くらい僕が洗いものでもするか、と食器を洗っているとゴミ箱のあるものが目についた。冷凍食品の、レンジで温めるタイプのチャーハンの包装。それが山ほど。 「…………」  おい、と母を呼ぼうとすると死に顔みたいな父がやって来た。邪魔しようってのか。 「これ、彼女のぶんも一応持っとけ」  母さんに聞こえないよう耳打ちしながら、ビニール袋に入った何かを渡してきた。さっき渡されたものと色違いの長靴だった。ピンクだ。 「…………ありがと」  したり顔の父が去っていく。何か大きな過ちが起こっていたが、口にするべき言葉がわからなかった。  どいつもこいつも嘘つきばっかりだ。
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