ダム、廃村、思い出

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◆◆◆  目覚まし時計が煩い。叩き壊してやろうかと思ったが、返り討ちにあって骨折した経験があるので思い改めた。普通に止めた。  しばらくは眠気が体のすべてを支配していたが徐々に鎮まっていく。「あー」とか「うー」とか唸ってみるが病気ではない。格闘中なのだ、主に自分との。  朝が弱い僕はこの時間がなかなか長い。延長戦までもつれ込んで気づけば二度寝……なんてことも多々あることだった。こうなってくると二度寝をするために目覚まし時計があるんじゃないかという錯覚をしてしまいそうだ。  長期戦に入りかけたとき、くるまっていた布団を強奪され「起きなさいー」いだだだ、痛いって平手打ちをやめなさい。 「起きとるわー」 「じゃあ降りてきなさい」  布団を引き剥がしたのは母さんだった。母さんが腰に手を当て、勝ち誇った顔をしていた。いや、僕はうつ伏せなので見たわけじゃないがそういう人だった。 「日曜日だしもうちょっと」 「主婦の仕事に休日もくそもないの。早く起きなさい穀潰し」  息子に向かって酷いことを言う母だった。養われている身の上では反論できないのが歯痒い。それにしたって穀潰しはないだろう。 「それともう昼よ」  母さんがカーテンを開け放つ。眩しい。そして暑い。本当に昼のようだ。 「火攻めとは卑怯なー」 「バカじゃないのあんた……。とにかく朝御飯、もとい昼御飯できてるからすぐに降りてきなさい。今日はチャーハンよ」  さっさと部屋から出てけ、と呪ってみたら心を読まれたかのごとく今度は敷布団までひっぺがされた。なされるがまま転がり落ち、床でしたたかに頭を打ち付けた。 「チャーハン嫌いなんだよな……」  扉に恨みでもあるみたいな勢いでドアが閉められ、床に転がる僕は仰向けになってそう漏らした。だって母さん料理下手くそだし。  んあー、と涙が出てくるまで伸びをして状態を起こす。僕と一緒に落下した目覚まし時計は確かに昼の時刻を指し示していた。  一つ、二つ、三つ。秒針がやけに耳障りだ。  逃げるように部屋を出て階段を降りるとテレビの音が耳に届く。それに混ざってスプーンと皿がぶつかる音がしていて、僕以外の家族が食事を取っていることを教えてくれる。  面倒なので歯磨きも洗顔もパスして、居間の扉を開けた。
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