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「行きたくない……」
サンダルを履いて、玄関を出ればすぐそこに見えるお隣の佐藤さんの家を目指すが、足取りが鉛のようだ。近づくにつれて 吐き気も催している気さえする。気のせいじゃないから気が重い。ダムに降りていった昨日の記憶がちらついて煩わしい。くそ、六月め。
お隣の佐藤さんの家は友達の家だった。正しい表現を使うなら友達の前に『元』をつけるか、後に『だった』をつけること推奨。今となっては交流のなくなってしまった元友人宅。気が進まないのがわかっていただけたであろうか。
会わなければならないわけではない。ポストに突っ込んでおくだけでもいい。それなのに精神が以上を来すのはあの日のことが頭にこびりついて離れないからだ。心に根を張って、毒ばかり作り出す。困ったことにこれは時間という除草剤も受け付けないのであった。
最善策は気にしないことなので、さっさとポストに突っ込んで帰ることにする。万が一ということもある。そうなったらきっとブルーなマンデーを迎えてしまう。
「はいっ…………と」
その時だった。佐藤さんの家の玄関が開け放たれ、中から誰かが出てきた。人生思ったようにことが運びませんね、と冷静を勤めてはいるが、本当はその場で泣き出してしまいたいくらいだった。
よりにもよってというか、運悪くというか、なんにせよ僕にとっては、そして相手にとっても同じくそうだったらしく苦虫を噛み潰したように表情が歪む。二人とも同じような顔をしているので、関係の現状確認はするまでもなく最悪だった。
出てきたのは元友人の佐藤だった。
「……おはよう」
「……もう昼だけどな」
むこうもさっき起きたらしい。佐藤も昔から朝が弱かったが、それは代わりないようだ。相変わらずというか、幼馴染みは似ているものなのか。
ぎこちないやり取りの後に何か会話が弾むわけもなく、佐藤の目は怪訝なものになった。
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