第1話

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さらにラッキーなことに歯科医院の先生は独身で優しい人だった。 その先生はまだ30代でお金を持っていて、勤めている医院を一人でたてたのだった。 そう簡単にできるものではない。 歯科の世界はいっけん華やかに見える。 だがその影で激しい競争が繰り返されていた。 勝ち組ど負け組が、ハッキリしてしまう弱肉強食の世界。 他にも助手の子は何人かいる。 おそらくは先生の妻の座を狙っているに違いない。 口に出さなくても私にはわかるわと中島は知っていた。 そして昼休みはみんなで近くのイタリアンに食べに行った時の話。 女だけでいくと普段言えないことも言うことができる。 「佐々木先生ったら私にチョコレートくれたの」 一番年齢の高い年上の女が自慢気に言う。 「なにそれ聞いてない、私はもらってないわ」 眉毛の濃い女が言った。 「私もよ、なんであんただけチョコをもらえるのよ」 鼻がでかい女も続けた。 女たちはパスタを食べながら、その話に注目する。
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