camellia

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桜庭は、車のドアを閉めてから運転席に乗り込み、花宮さんを一瞥してからあたしの方をみて小声で 「……だれ?」 と言ってきた。花宮さんを信用してない、って言うか思いっきり怪しんでいる。 「花宮さん。具合悪そうだったからさ。とりあえずあたしの家までよろしく」 と言うと、桜庭は納得いかない、とでも言いたげに首をかしげて、少し考え込んでから、渋々了承した。 車がゆっくり発進する。 それと同時に、花宮さんがゆっくりと顔をあげた。 そして弱々しい声で 「紅様の家に……お邪魔するなど……」 と言ってきたから、あたしは花宮さんの方を見て 「なに言ってんの。あのまま道でぶっ倒れられても困るでしょ?とりあえずあたしの家で休んで行きなって」 と言うと、花宮さんは一言謝ってから目を閉じた。 それを確認すると、あたしは前に向き直した。 大通りの信号が赤に変わり、車が止まる。 桜庭はまた声をひそめて 「なぁ、アイツ……俺と同じにおいがする」 と言って、怪訝そうに花宮さんを見た。 あたしは花宮さんじゃなく、桜庭を怪訝そうに見た。 「桜庭と同じ匂いぃ?……女たらしの匂いか?」 「お前なぁ……電話の事言ってんのか?言ってるだろ。あれは仕事だ」 桜庭はそう言うけど、絶対嘘だ。 桜庭に電話すると、5回に1回の頻度で女が出る。 しかも、いつも違う人だ。声で分かる。 桜庭は、爽やかそうな雰囲気で女の人を次々だましているんだ。きっとそうだ。 桜庭は、呆れた顔をしてから、いきなり真剣な顔で、 「違ぇよ。……二重人格、演技」 と言ってきた。 そう言えば、桜庭は二重人格だな……なんて思いながら 「花宮さんもそうだって言いたいのか?」 と言うと桜庭は頷いた。 「まぁ……少なくともいい奴ではないことは何となく分かるよ。気をつけるから、心配すんな」 と言って、目を閉じると、それ以上桜庭はなにも言ってこなかった。
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