II-1『距離』

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 赤王山、と地元民から呼ばれている小さな山があった。秋になると見事な紅葉で辺りを真っ赤に彩る事が、その名前の由来だとか何とか。  そんな秋の季節もすっかり通り過ぎ、冷風で枯れ葉の舞う肌厳しい冬の夜空の下、山中に二人の男女の姿があった。  一本の樹木を挟む様に互い同士が背中を向け、ぽつりぽつり、と二人は顔を見合わせぬまま言葉を交わしている。  時折、真剣なその表情を綻ばせ、そして時には目を伏せて唇を引き結び―――互いの言葉を、思いを紡いでいく。 「俺はあの戦いで、朴とリィフの二人を助ける事が出来なかった」  二人の内、少年の方が口を開き、告げる。  ―――全体的に小柄な少年だった。髪は黒と言うより、やや暗い茶色。どこか幼さの残る顔付きは中性的で、それが少年の幼さをより際立てている。  初対面で彼が十六歳の高校一年生だと見抜ける人物は、おそらくそう多くないだろう。  しかし、言葉を続ける少年の―――結賀悟の表情に宿る意志の強さは、確かに一人の男性としてのものだった。 「『回帰』のウォリス……俺の力が足りなかったばっかりに、そいつが二人を連れ帰るのを、俺は黙って見てる事しか出来なかった。  ……正直に言えば、ビビってたんだと思う。怖かったんだ、ウォリスが。あいつから感じた『力』が」  何かを思い返す様に宙空を眺め、悲痛に眉を歪め、唇を噛む。  あの戦いから―――朴陽麟ら『組織』の組員達の襲撃から、既に四日が経っている。しかし、いくら何日間と時が過ぎようが、この思いは胸にこびり付いて消えてはくれないのだ。  悔しい、と。
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