-思ひでぽろり-

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-思ひでぽろり-

 宮原駅から高崎線に乗り、窓外の景色をぼうっと眺めながら小気味好い振動に身を委ねていると、赤羽に着く頃には僕の肩はすっかり凝り固まってしまっていた。  そこから更に埼京線に乗り換え、新宿まで向かう。  十五分ほど揺られて到着した新宿駅は、相変わらずゴミ箱を引っくり返した様に人間が乱雑に溢れ、その数の多さに反して妙に寒々しく感じられた。  僕はといえば、私鉄へ乗り換える為に、迫り来る人波に飲み込まれないよう、右に左に横移動を繰り返し、駅構内を歩いていた。  宛らマタドールだ。今なら、どんな猛牛でも華麗に躱す事が出来る気がする。  軽快にステップを踏み、誰ともぶつかる事無く乗り換え用の改札を通り抜けられたら勝者だ。八王子行きの京王線に滑り込みながら、得意気に「ふん」と鼻を鳴らしても、それは当然の権利だろう。  僕は乗降扉に寄り掛かり、ジャケットのポケットから引き摺り出したイヤホンを両耳に突っ込むと、心地好いリズムを聞きながら勝利の余韻に浸る事にした。  それから程無くして、けたたましい発車ベルが鳴り響き、電車はゆっくりと動き始めた。  
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