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新宿を出ると直ぐに、都会に塗れた景色は鳴りを潜める。
高層ビルの群れは遥か遠くに追いやられ、千歳烏山辺りを過ぎて街が“区”から“市”になると、それはもう完全に民家や商店街の姿へと変わっていった。見慣れた景色だ。
やがて車内に、車掌の気怠いアナウンスが流れる。
『次はぁ、調布ぅ、調布ぅー』
停車位置より、ほんの少しずれて停まった車両の扉が、溜め息を吐きながら開け放たれると、スタートを切られた競争馬の様に乗客達は我先にと一斉に降りていく。
僕はその後に続き、静かにホームに降り立った。乾いた風が鼻先を擽る。半年振りの故郷の匂いだ。
思いっきり伸びをし、肺の中を地元の空気で満たすと、僕は改札を出て北口に向かった。
それにしても、長いこと電車に乗っていた。毎回そう思う。
二時間近い電車移動。都会育ちの僕にとって、これはもうちょっとした小旅行だ。情けない事に運動不足のこの身体には、それだけで疲労がドサリと蓄積されてしまう。
そんな僕をからかう様に、悪戯な声がいきなり背後から、
「お疲れ様です」
と話し掛けてきた。
振り返ると、そこにはしたり顔を浮かべた真紀が立っていた。
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