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「偉い、偉い。時間通りに到着したじゃない」
「……どうも」
僕は冷ややかに返す。すると彼女は、団栗を頬張るリスのように頬を膨らませ、
「ちょっと、二週間振りに会った彼女に対する第一声がそれ!? もっと他に無いの?!」
と、判り易く不機嫌になった。
「うーん……髪、切った?」
「いや、切ってねぇし! 寧ろ伸びてるからっ!」
小さな身体をピョンピョンと弾ませながら、僕にツッコミを入れてくる彼女の反応は、見ていて凄く面白い。
「あ……じゃあ、背が伸びた?」
「うん、そうそう。今日はヒール高いのだからね……って履いてねぇわ! 普通にスニーカーだしっ!」
「じゃあ……あれ、胸が大きくなったんじゃない?」
「……すみませんね、貧乳で……」
「ていうか、眠たいわぁ……」
「ええぇっ! 飽きたっ?! 久し振りに会った彼女にもう飽きちゃった!? そっちから始めたくせに、意外過ぎて腰抜かしそうなんですけど……」
そう言って、目をキョロキョロと左右に動かす彼女の仕草に、僕は思わずケラケラと笑い声を上げる。本当にからかい甲斐のある奴だ。
「真紀は益々面白くなるね」
「いや……そこ目指してないから……」
「でも、美容師なんだし、話術は必須でしょ?」
「話術って、そういう事じゃないよ。そもそも、髪を切りに来るお客さんは、ノリツッコミとか求めてこないし……」
「へぇ……まぁ、そんな事より早く行こうか? もうそろそろバスも来るし、乗り遅れちゃうよ」
腕時計に視線を落とすと、丁度事前に調べておいたバスの到着時刻になろうとしていた。僕は真紀の手を取り、バス停に向かって駅前のロータリーを歩き出す。
その後ろで彼女がボソッと、
「……勝手に話題をカットアウトするの、やめてくんない?」
と呟いていたが、敢えて聞こえていない振りをして、見計らったように遣って来た深大寺行きのバスに乗った。
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