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「嘘でしょー!?アンタ、女の子だよ、女の子!それも超絶可愛い!それを無視って…アンタ、男色家?」
喚き散らすそれを無視して、先程指を挟んでおいたページを開いて読む。
主人公が狐巫女を庇って炎に包まれた所だ。
『良くできるねぇ…俺には真似できないな。でも、アイツならやりそうだなぁ…狐溺愛してるし』
そんな思案をしたものだから、思わず笑みが溢れてしまう。
すると、ここぞとばかりに喚き立てる例の奴。
「あー?思い出し笑いかい?…それやる人ってエッチな人らしいよー?」
…成る程…、馬鹿にして俺を怒らせて強制的に絡もうって魂胆だな?
面白い作戦だが、しかし残念。
ウン百万円貯めた俺の忍耐力を甘く見るなよ…。
「………」
「………」
沈黙が部屋を支配した。
あるのは、ページを捲るときの独特な紙擦れ音だけ…。
こういう静寂は、何とも心落ち着くものだ…しかし。
「………」
「……う」
こういう類の騒がしい奴には、居心地が悪いのだ。
無言の圧力、有効攻撃方法である。
「うがー!なんか喋ろよ!!」
「………」
ここで折れて語り合ってはイケない。
折れると…十中八九、会話の主導権を握られて無理矢理本題をねじ込まれる。ここは我慢の時である。
「………」
「…コイツは、やるといったらやる凄みがあるぞ…ぐぅ…予想以上だ…こんなに手こずった相手はアンタが初めてだ」
ふぅ、読破…さて、次の話を読むか。
俺は、本を元あった位置に戻して次の本を取り出す。
「もう…いいよ」
そう寂しそうに呟くと、その異物は煙のように掻き消えた。
しばらく、そのまま本を読んで様子を見ていた。
こういう類の奴は、絶対に一度で帰らない。
「………」
「…バレたか」
予想的中。
やはり、透明になって俺が喋るのを待っていたようだ。
「くそー!覚えてろよ!?次は絶対喋らせてやる!」
無駄な捨て台詞を吐いて、それは窓を開けて飛び去っていった。
俺はその様子を横目で観察しながら、ポツリと呟いた。
「…何だったんだアレ…ま、被害はないし…どうでもいいかな、そんなこと」
そうして俺は、ページを捲る作業に没頭した。
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