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「いらっしゃいませー」
店に入ると、暖かい空気と店員の挨拶が俺を迎えた。
直ぐ様、入口のすぐ横に設置されている図書コーナーにさらっと目を通す。
漫画、漫画、漫画、漫画、漫画、漫画、小説、漫画…。
勢い余って通り過ぎたが、少しだけ視線を戻して数少ない小説を手に取る。
背表紙には『異世界召喚』と書かれていた。
…なんでコンビニにこんなものが?
店長の趣味なのだろうか。
推測も程々に、一応購入を決意して持ち出す。
後は適当に飲料や菓子などを身繕い、レジへと向かう。
コンビニって寄るとついつい入らないものまで買っちゃうよね。
それで、失敗したなーなんて思うのは良くある話…。
こういうところで我慢すると、自然とお金は貯まります。皆様もお試しあれ。
と、誰に言うわけでもなく考えて会計をお願いすると…店員が口を開いた。
「あれ!?この本…『異世界召喚』じゃないですか!いやー、買ってくれるんですか!ありがとうございます!」
………聞き覚えのあるこの話し方。
まさかとは思うが、一応確認のためチラリと顔を見た。
そこそこ可愛い、大人しそうなセミロングの女性だ。歳は同じくらいだろうか。
しかし、まだ油断は出来ない…。
「異世界召喚、ずっと売れ残ってて困ってたんですー、うふふ。所で、お客様は異世界召喚とか興味あるんですか?ありますよね?この本を手に取るくらいだもん!」
手慣れた様子でバーコードを読みこませながら、饒舌で捲し立てる女性。
この調子は間違いない…さっきの奴だ。
今度はコンビニの店員に化けやがったか…。
しかし、愚か者め…現実を学べ!このような饒舌かつ馴れ馴れしい店員など明らかな異物なのだよ!
「…て訳で異世界召喚」
「幾らですか?」
「はい?…いや、そんな事より」
「幾らですか?」
「あの」
「幾らですか?」
「…605円になります…本代は結構です…」
切なげに俯いて、手際よく商品を詰めた袋を俺に渡してきた。
それを受け取り、早々とコンビニから脱出。
背中で、消え入りそうな『ありがとうございました』を受け止めながら…。
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