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気不味い。
ねぇ、喋ろうよ。
何か、喋ってよ。
ほら、何か空気悪いじゃん。
毛根死滅しろって思ったのがいけなかった?
別にいいでしょ、思うぐらい。
…冗談はこれくらいにしとくか。
分かってるよ。
あの血塗れの殺人現場見たから、こうなってるって。
当事者だから、余計に気不味いよ。
「何か、喋ってくれませんか」
別に、私に話かけてほしいわけじゃない。
ただ、この空気が嫌なだけ。
「君、今の立場、分かってる?」
沖田総司はニコッと笑う。
瞳だけは、私の動向を睨んでいた。
張り付けた笑顔が、私を捕らえる。
ムカつく、そういうのが一番嫌いなんだ。
「分かってますよ。私は"血も涙もない極悪の下手人"でしょ?」
沖田総司の笑顔が歪んだ。
滑稽な笑顔だけど、さっきの顔よりいい。
「分かってるならいいよ…」
どこまでも、上から目線だね。
というか、普通に今の立場くらい分かる。
刀傷のある女性に、肉片の男、そして血塗れの私。
どう見たって、犯人は私じゃん。
弁解の余地なく、私が極悪人じゃないか。
あんな物的証拠が揃ってる状況で、誰が私の話を聞いてくれるの?
誰も聞いてはくれないでしょ?
あーぁ、傷つくなぁ。
まぁ、かすり傷程度だけど。
最初から"分かってた"から、問題ないんだよ。
「それで"トンショ"とやらは、まだですか?」
私はニヒルに笑う。
でも、流石に疲れたなぁ。
体力ないって、幕末じゃ致命的なんじゃないの?
ヤバイよね、私。
「もう少しだ」
斎藤一は、ずっと無表情だよね。
表情筋、死んでるの?
表情出しなよ、私の暇潰しの為に。
沖田総司は笑いすぎ。
中間はどこ?
「そうですか。では、"トンショ"に着いたら私どうなるのでしょうか?」
下手人だしなぁ。
良くて牢獄、悪くて斬首なのかな?
平成だと、ありえない展開。
ほんの少しだけ、ワクワクする。
「……何で、喜んでんの?」
「今まで、退屈だったんですよ。だから、どうなるか分からないことに喜んでるだけです」
それに、いつまでも、そのままじゃ意味がないから。
私は戻るんだ、あの灰色の世界に。
戻る手段が、極わずかでもあるなら、私はそれに縋る。
そんなこと、この人達には教えない。
"変な奴"だと思われていい。
私とこの人達は赤の他人なんだから。
どうだっていい。
だから、今、チリリと傷んだ心も、ただの気の所為なんだよ。
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