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*****山崎side
「だって、ほら、山南さんのところにいるだけで、アイツにとっては罰みたいなものじゃないですか」
威圧感のある笑顔なんて効果抜群ですよ、なんて嬢ちゃんは言う。
部屋でのことを思い出したのか、少しだけ顔を青ざめながら。
「せやなぁ。あの人、山南はんのこと嫌がっとったしなぁ」
ワイは話を合わせながら、ちらりと嬢ちゃんの顔を見た。
「話を合わせる必要ないですよ」
背筋がひやり、とした。
もちろん、そないなこと顔には出さんかったけれども。
この嬢ちゃん、今なんて言いよった?
「大変ですね、監察って。こんな不気味な人間と過ごさなきゃいけないなんて苦痛ですよね。分かりますよ、うん」
自己完結し始めたことに、ワイは焦る。
「そないなこと、思ってへんよ?」
「…そうですか、そういうことにしましょう。後、別に、私のことを分かろうとなんてしなくていいですよ」
目の前のこの子は、どうせいなくなる人間だから、と微笑んで言い放つ。
それが、何故か、ワイの心の臓を締めつけた。
「あ、服貸してください。血塗れなんですよね、今」
「へ?」
ち、まみれ?
「そ、それ血やったんか?怪我は!?全部、返り血だけなんか!?」
嗅ぎなれている筈の血の匂いがせんやった。
その色を、血だと認識することができひんかった。
まるで、誰かに惑わされていたように、違和感すら感じんやった。
これが、魔王とかいう男の力なんか?
人の意識すら、違う方へ向けさせれるっちゅうことなんか?
せやったら、なんて厄介な男なんや。
「怪我なんてないです。言ったでしょう?あの人は、私を殺すこともできずに、殺されたって」
できずに、ということばに眉をしかめた。
なぁ、死にたいんか?
何で、そんなに死に急ぐんや?
「だから、私に怪我なんて何もない。何も、ないんですよ」
なぁ、この子を独りにしていいんか?
このままやと、ぽっくりと誰にも知られんで死んでいくで。
監察としてなら、ただ監視の相手がいなくなるだけや。
やけど、ワイという人としてなら…?
「…風呂で温まりぃや」
医者を志していたワイなら…?
「場所、知らないんですけど」
「案内するに決まっとるやろ、ついてき」
「分かりました」
常に拒絶し続ける嬢ちゃんに。
目を離すと死んでしまいそうなこの子に。
瞳の奥で、何かに縋りたそうな"朱音"に。
敵かもしれんのに、手を差し伸べたくなった。
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