プロローグ

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「寒くないか?」 僕は車イスを押す手を止め、着ていた上着を圭子の肩に羽織らせた 「ありがとう、でもそんなに寒くはないんですよ」 「風邪をひくと困るだろう?散歩をするには辛い場所だ」 「えぇ、でも私ここが好きなんです」 圭子は遠く川岸を見つめた 川向こうから吹き付ける風は冷たくて身震いがする 「ここはね、雪が積もると綺麗なんですよ…この地方ではめったに降らないけどね」 「そうだな、何年も積もった雪なんて見ていない気がするな」 「えぇそうですね…あの…」 「なんだ?」 「貴方…どなたでしたかね?」 「誠治だよ、木崎誠治だ」 「あぁ誠治さん、ご無沙汰でした…」 圭子は曖昧に微笑んだ 微笑む圭子を見て、僕は君の夫だと、喉まで出かけた言葉を飲み込んだ
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