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「私…ごはんの作り方、忘れちゃったみたいなの」
相変わらず、圭子は隙あらば弁当を作ろうとする
食事を、すぐ何かに詰め込もうとするのも弁当を作ろうとしているのだろう
「そんな事ないよ、美味しくできている」
僕は圭子がタッパーに詰めていた白いご飯を食べた
「さぁそろそろお弁当を作らなきゃ…」
圭子はまた台所に向かう
「また作るのかい?もう夜だから弁当は明日にしたらいい」
「もう誠治さんの出勤時間なのよ…」
「もう、出勤はしなくて良いんだよ」
冷えたご飯は喉を通り難くて、僕は熱いお茶を飲みながら、呟いた
「誠治さんは…主人はね、好き嫌いが多くて…
私が作らなきゃ駄目なの
ほっとくと平気で食事を抜いたりするのよ」
「圭子…」
そうだ…君はいつも僕のために弁当を作ってくれているんだ
涙が頬を伝い、無造作に詰め込まれたご飯の上に落ちて少し塩っぱくなった
君はいつまで僕の事を覚えていてくれるのだろうか
その日が来る事を考えただけで、絶望の淵に立たされた気分になる
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