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『――ハァハァ。』
まだ皆が寝静まる早朝。
今日は生憎の雨らしく、春の朝だというのに外は暗く、雨が激しく降り注ぎ地面を濡らしていた。
神來は荒い呼吸をしながら、布団を出て縁側へと出た。
寝着は寝汗でグショグショになっている。
『たく...昔の夢なんか見なくていいんだけどよ....。』
神來はそう呟くと、湯浴みをしに湯殿へと向かうことしにした。
湯殿へと向かう途中、客間である一つの部屋の前を通り掛かる。
...中では凛が眠っている。
神來の屋敷でお世話になる事になったからだ。
話は昨日に遡る――。
あれから神來と凛は屋敷についた後、具合が善くなっていた桜に出迎えられた。
『――神來様お帰りなさいませ。そして凛様、話は聞いております。歓迎致します。』
頭を深く下げ、桜は凛を快く歓迎した。
『桜さん、あ..ありがとうございますっ!宜しくお願いします!』
凛も慌てて頭を下げた。
そんな凛を見て桜は穏やかな笑顔を浮かべる。
『―――桜。悪りぃが、今日からこいつの面倒を頼む。部屋は好きなとこ使え。よろしくな。』
『はい。承知致しました。』
神來は桜にそう伝えると、凛に一声も掛けることなく自室へと向かっていった。
あからさまな神來の態度に凛は今からやっていけるか心配であった。
『....あの...凛さん。』
『?』
『え...と、女中の身である私が言うことではないと思いますが......。
あまりお気に為さらないで下さいね。』
『え...?』
『正直、神來様は人間がお好きではないのですが......芯は温かく寛大な方です。今は難しい時期とは思いますが、時が経てばきっとお心を許してくださる筈です。』
『桜さん...。
...ありがとうございます!』
気休めかもしれないが桜の励ましに凛は少しの元気を貰った。
そんな二人の姿を自室に戻っている筈の神來が、遠くから見ていた。
『...最悪だ。』
神來はそう呟くと、次は本当に自室へと戻って行ったのだった。
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