これが私

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「ちょっと聞こえないの?!」  挨拶代わりに冗談で相手を蹴飛ばす生徒や、両手を広げて何の事やら今朝のビックニュースに喜び合う女子ばかりだ。 「智亜美ってば!!」  あ、また教室の扉が開いた。  そしてお約束の様に群がる虫みたいに何人かの女子や男子がおはようと駆け寄る。 「無視するなっ」  そんな子はクラスの人気者なのだ。  分け隔たりのない生徒は、どの学校にもクラスに一人は必ずいるもんだ。  皆を寄せ付けるオーラを放っていて、嫌な顔一つしない明るく人気者っていう名役者だ。 「聞けっっ!!」  視界の外側から耳鳴りにも似た私を呼ぶ声に思わず眉間に皺しわが寄った。  椅子に座っていた私は、新喜劇を感じさせるコケ方をしてしまった。朝っぱらから迷惑としか思えない声は、私を呼んでいたらしい。  怒のオーラと共に見覚えのある綺麗な黒髪、そして端正な顔立ちをしている女子が目に入る。 「んぎゃっ! なにもう、ビックリしたぁ。おはよう美弥」 彼女は一ノ瀬美弥。  一番の仲良しである彼女の名前を呼ぶと、何故か疲れ切っていて凛々(りり)しい顔立ちが引きつって見える。 「ビックリしたって……何度も呼んだし」 「そうだった? ごめんね」  仁王立ちとはいかないが腰に手を当て、自分が怒っているという事を表現している。  それでも時々流れてくるストレートの黒髪は、彼女の気品を表していた。 「いつも無駄に喚き騒いでる子が珍しくボーッとしてるのよ」 「無駄に……って、失礼な」 「珍しく落ち込む事があったの?」 『怒』を表現していた仁王立ちはいつの間にか解かれ、心配そうに私の顔を覗きこむ。  一回り大きな黒目が綺麗な顔立ちと共に輝いて私の瞳に映る。 「まさかーー!! そんなことないって!」  誤魔化しにも似た甲高い声を教室中に響かせると、再び元の場所に戻ってくる。  素直に朝から人間観察をしてましたって言ったら微妙でしょ。  笑ってこの場をしのごうとする私に美弥は、うるさいと一蹴りした。  間抜けな笑い声に気付いてか。  それともその前から私のバカ面を発見していて、ただ集まってきただけか。  どちらにせよおでこに『好奇心』を張り付けた女子集団が私に目掛けてやって来た。
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