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「…………」
「どうした玖払。なんか言えよ」
「いえ……残念だなぁとしか」
「残念? この太ももを撫でることが出来ないのがか? 甘いな、俺ほどになると全ては妄想で補完することが」
「もう黙ってください」
薬師寺先輩は、医大志望だけあって、こう見えて成績がよいと聞く。
理数系科目では、常にトップを死守しているという。
ルックスもよい。その爽やかな顔立ちは、そのままアイドルになれるのではないかと思うほどだ。
加えて、性格もよい。誰にでも気さくで、トークが軽快で、万人から好かれるような人だ。
ただ、そのあまりの変態っぷりに、未だ彼女はいない。
残念。それが入部して数週間で僕が薬師寺先輩に抱いた評価だ。
本当、これさえなければ完璧なのに……。
「おいどうした玖払。この写真が欲しいのか? まぁ可愛い後輩がどうしてもって言うなら譲らないことも」
「療治」
ふいに、言葉が差し込まれた。
見れば、何時の間にやら、薬師寺先輩の横に女生徒がいた。
二年生の汀眼 仁美<ミギワメ ヒトミ>先輩だ。
専門は、魔眼系術式。
小柄で、口数の少ない先輩だ。
「どうした仁美。はっ、もしやお前もこの写真を狙って」
「……部室で変態トークしないで。没収」
言うと、汀眼先輩は薬師寺先輩の手から写真を奪った。
「あぁ、そんな殺生な!!」
「黙って」
汀眼先輩は薬師寺先輩に厳しい。
薬師寺先輩の言葉には耳を貸さず、すたすたと先ほどまで座っていた机に戻っていく。
「…………あぁ」
絶望にうちひしがれる薬師寺先輩。
いちいちこんなことで膝をつかないでいただきたい。
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