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絶望したままの薬師寺先輩は放っておき、僕は自分の机に座る。
「こんにちは、左門さん」
隣に座ってる女子に挨拶する。
「こ、こん、にちは、玖払、君」
左門さんはつっかえながら返事をしてくれた。
左門 呼子<サモン ヨブコ>さんは僕と同じ一年生。一年四組。
専門は召喚術らしいが、本人曰く、まだ大したものは呼び出せないとか。
前に見せてくれたときは、真っ白な鳩を出してくれた。
……正直、手品かと思ったのは言わないでおいた。
今、左門さんの前には一冊の分厚い本が置かれている。内容は……魔法陣か?
「何してるの?」
「あ、今、召喚用の魔法陣の、勉強中……」
本に目を向けたまま答える左門さん。
いまだに彼女と目を合わせて話したことがない。話すのが苦手なのかな?
「ふーん……」
僕もその本を覗き込んでみる。
……駄目だ、さっぱり分からない。
まだまだ勉強が足りないか……。
「玖払、左門」
左門さんと話し終え、さて自分のことに取り掛かろうとしていると、またもや名前を呼ばれた。
顔を上げると、前に多々良 刀子<タタラ トウコ>先輩が居た。
三年生。専門は魔具作り……らしい。
魔具っていうのは、魔術師が魔術を使うために必要な道具や、魔術的な武器のこと。
霊装と呼ばれる場合もある。
これくらいの基本知識は、僕も叩き込んだ。
「食べる?」
いつもどおりの眠そうな目で、作務衣姿の多々良先輩は袋を差し出してきた。
中には……なんだろう、スティック状のもの。
「なんですか、これ?」
「パンの耳に砂糖をまぶして、揚げたもの」
「ああ、シュガースティックパンって奴ですね、それ。美味しいですよね」
「いる?」
「いただきます」
「あ、ありがとう、ございます」
受け取る僕と左門さん。
多々良先輩は袋ごと置くと、どこからかもう一袋取り出して、ぽりぽりとかじりながら壁際にもどっていった。
僕もぽりぽりとかじりながら、机に向かう。
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