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病院の廊下を、私は駆け抜けた。
制止をかける看護師の言葉も聞かずに目的の場所へ向かう。
途中、何度か反応の鈍い医療用ロボットにぶつかりそうになったが、今はそんなことどうでもよかった。
ただ、幸せな妻の顔を見るために。
もう一度、彼女達との生活を取り戻すために。
私は希望に満ちた笑顔で、ドアを開けた。
しかし、そこにいたのは、もう二度と微笑むことのない妻だった。
彼女の側に立っていた医者と看護師が、気の毒そうに私を見た。
私は妻の体を揺らした。両肩を抱えるように持って、ブンブンと揺らした。
『あなた、そんなに慌てないで』
微笑みながら言う、妻のその声が聞きたくて。
幸せそうに笑う、彼女の顔が見たくて。
けれどそれは叶わなくて、私は妻の体を抱きしめた。
頬に涙が流れるのを私は感じた。
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