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「……本当に、待ってたよ」
始めに、とろけるような甘い声を出したのは、秋(しゅう)。
フワッとゆるいパーマがかかったような髪に、髪と同じ色の薄茶色の瞳。
身長は低く、顔つきもまだ十代になったばかりのような、幼さを残した少年。
しかし、秋もれっきとした獣一族の五強に入る鷹一族の者で、その手の指には、一本一本、鋭く尖った鍵爪がついている。
「ご無事で何よりです」
次に、低く重みのある声を出すのは利洲(りす)。
名前は可愛らしい響きなのに、藍色の髪をライオンの毛のように尖らせ、真っ赤な瞳を持つ目は、目尻が鋭く尖る。
頬に鰭(ひれ)があり、硬い鱗で作られている鎧を、筋肉質の大柄な体に纏い、背には大きな愛刀を提げる。
利洲もまた、獣一族の五強のひとつ、鮫一族の者。
「……姫様」
最後に、小さく、けれど透き通るような綺麗な声を出すのは、葉(よう)。
待ち構えていた三匹の中で、葉は唯一の女であり、腰まである金髪の美しい長い髪と、真っ黒な瞳をもつ。
小柄な体だがスタイルは良く、胸に赤い雫のような刻印はあるが、真珠のような白い肌に、黒いドレスがよく映えている。
そんな葉もまた、獣一族の五強に入る虎一族の者で、その口には肉を切り裂くための鋭い牙が四本。
「……」
庵は眉間にシワが寄せながら、複雑そうに、三匹と緋依を見ていた。
「姫様、お腹は空いてない?」
語尾を上げて緋依に尋ねる秋に、庵の眉間のシワの溝はさらに深くなる。
庵のシワの原因は、嫉妬……三匹も庵と同じく、緋依の『餌』なのだ。
「さっき、庵の血を飲んだばかりだから、お腹いっぱい」
「そっ、かあ」
「だから……三匹は、また後でね」
シュンと項垂れる秋に、緋依が柔らかい笑みを浮かべてそう言うと、緋依の後ろに立つ庵は、嫉妬の色を一切隠さない、燃えるような冷たい目を三匹へと向ける。
普通の獣ならば、庵のその無言の威圧に堪えられず、怯むはずなのだ。
「はい!」
「楽しみにしております」
「……はい」
だが三匹は、庵の威圧など気にもとめていないかのように、緋依の言葉に嬉しそうな笑みを浮かべた。
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