王家の秘密

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 “――如何なさいますか、緋花様”。   ******  組んだ手に額をのせ、俯きため息を吐いた緋花の鋭く尖った耳に、足音が聞こえてきた。  その音は、一匹分。  大きな扉が轟音を奏でながらゆっくりと左右に開き、部屋の中に、足音の主が入ってくる。 「お母様……」  震えている高い声に、緋花が顔を上げれば、声の主は口をわなわなと震わせながら、言葉を紡いだ。 「何故私が来たのか、わかっているわよね……説明して」 「……緋依、」  両の目の、本来白いはずの部分を赤くして、涙を流しながら、緋依は玉座に座る緋花の前に立った。 「私はいいの……でも、お兄様の気持ちをお聞きになったのではなかったの?」 「なんっ、で」  緋恋の想いを緋依が“知っている”ということを“知らなかった”緋花は、緋依の問いかけに、顔を青ざめ、思わず息をのんだ。 「成獣の儀の日の"事"も、私は知っているわ」 「!」  緋依はそれ以上何も言わずに、責めるような鋭い眼差しで、押し黙る緋花を睨んだ。 「……緋恋の気持ちを、緋依はどう思う?」  緋花は、しばらくの間口を閉ざしていたが、観念したかのようにゆっくりとその口を開き、緋依に問いかけた。  緋依はふいと答えあぐぬように一度緋花から視線をそらしたが、すぐにまたまっすぐに緋花を見て、答えた。 「……その気持ちが正しいか、間違っているかの問いであるなら、間違いなく間違っているわ」 「そう……」 「けれど」  緋依の脳裏に昨日(さくじつ)の緋恋が浮かび、緋依の両目から静かに雫が溢れ落ちる。 「お兄様は、想いを押し付けることも、城を出ていき逃げることもしなかった……お母様の望みを、叶えようとしていたわ」 「……」  緋花は額に手をあてて項垂れ、緋花のウェーブがかかった漆黒の長い髪が、一房、肩から落ちる。  緋花に追い討ちをかけるかのように、緋依が再び口を開く。 「お兄様に変わらないでと望まれたのは母様のくせに……、こんな仕打ち、あまりにも酷すぎるわ!」
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