王家の秘密

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「でも、緋恋は愛してる」 「……」 「嘘じゃない……愛してるから、忘れて欲しいの」 「……」 「私を想っていても、緋恋は幸せにはなれないわ」  緋依は、叶わない緋恋の気持ちを考えれば、心が痛くなった――だが、緋花の愛の辛さを思っても、心が痛くなった。  今まで緋恋の気持ちだけに反応していた緋依は、瞼を閉じて、最初に自分が緋花へと放った軽率な発言を悔いた。 「緋恋が私を忘れてくれさえすれば、緋恋の婚約も、緋依と庵の婚約も全部解消するわ」 「……」 「緋恋への当て付けみたいだけれど……私もこれが最善だと思ったわ」 「え……」  しかし。  緋花の独白に、緋依はぴくりと反応し、バッと勢いよく瞼を開け、緋花を凝視した。  緋花が眉根を寄せる。 「私"も"……?」 「っ」  二度目の失言に緋花は再び顔を青ざめ、その緋花の表情を見た緋依は、両手で自分の口を覆った。 「お母様……まさか、お兄様の気持ちを、他者に言ってしまわれたの?」  タタッ――と、緋花の中で何かが走り出す。 「……そんなこと、私がするはずがないでしょう?」  緋花は否定を述べたが、緋依は一層目尻を引き上げ、緋花を睨み付けた。  カタッ――と、緋花の中で何かが震え出す。 「誰に言ったの!?」  緋依が両手を口元から離し、机に体重をかけ緋花に詰め寄る。  ギシッと机の軋む音が鳴る。  ザザッ――と、緋花の中で何かが滑り落ちる。 「……」 「……」  沈黙に包まれた王室で、緋依の鋭い目が緋花を突き刺し、緋花を逃さないように追い詰める。  アアッ――と、緋花の中で何かが叫び……消えた。 「……ごめんね、緋依」 「っ!」  緋依は"何"をされるか察知し身を翻そうとしたが、その時には既に遅く。  緋花の口が謝罪を告げると共に、緋花の瞳が赤く光り――緋依はその場に崩れ落ちた。
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