決めた道

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 利洲は、緋依が十三を迎えた日に、一族の長に王族への忠誠の証として差し出され、緋依の餌となった。  自分よりも百歳も下の“ガキ”の餌にならなければならないなんて、なんて不運なんだろうかと、利洲は嘆きながら城門をくぐった。 ◆◆◆  着なれない窮屈なスーツも、出迎えた黒豹の視線も、薄暗い城内の雰囲気も、利洲にはすべて不愉快に感じた。   『お前か……来い』  そんな利洲を緋依の部屋へと案内したのは、やけに肌の色が白く、利洲の見たこともない瞳の色の、細身の男だった。    利洲は偉そうな男の態度に一瞬ムッとしたものの、自分を気にする素振りも見せずに歩き出す男に、黙ってあとを着いていった。 『もしかして、あんたも餌なのか?』  複雑な造りになっている城内に、げっそりしながら男の背を追っていると、利洲はふと思い浮かんだことを口にした。   『……ああ』 (コイツも、どっかの一族から差し出されたうちの一匹なのだろう)  勝手にそう思い込んだ利洲は、当然同意の声があがるだろうと、ため息をつきながら言った。 『ふーん。お互いつらいよな』 『……』  だが、利洲の言葉を聞いた男は突然立ち止まり、眉をひそめ振り返った。   『……何がだ』 『!?』  ――ゾクッ  男が落とした低い声に凄まじい殺気を感じ、利洲の背筋に悪寒が走った。 『な、何がって……お、お前も俺みたいに、一族の代表として、選ばれたんだろ?』  利洲は情けないことに、目の前にいる自分よりもうんと小柄な男の、自分を見据える赤い瞳に恐れを感じ、声が震えた。  数秒の沈黙の後。 『……私は、自ら望んだ』  男が利洲の問いにそっけなく答え、再び踵を返し利洲に背を向け歩き出す。  利洲は自然とほっと胸を撫で下ろした。
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