決めた道

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 薄暗く視界の悪い廊下と階段を、男の気配を頼りに追って歩いていた利洲は、暫くすると男が足を止めたので、同時に足を止めた。  二匹の眼前には、赤子を腕に抱いて微笑む聖母が描かれた、見上げるほど大きな赤い扉が在る。  利洲は、細身の男がどのようにしてこの大きな扉を開けるのかと、好奇心が湧き、男の背にじっと視線を送った。 『姫様、お連れしました』   ところが、利洲の想像に反し、男は扉の中にいるであろう姫君に声をかけただけで、扉に触れることすらしなかった。  不思議に思った利洲が首を傾げていると、扉は轟音をたてながら、ゆっくりと左右に開き始めた。 (ああ、中にも誰かいるのか)  利洲は部屋の中にも従者がおり、中で開けたのだろうと推測した。  男の後を追って、利洲は部屋の中に足を踏み入れた。 『……』  だが、開ききった扉の中にいたのは、アンティーク調の黒い家具に囲まれたなかで、唯一白く浮きだっているベッドの上に腰かける姫君……緋依のみだった。 (扉の位置からベッドまでは距離がある……よな。髪も乱れていない姫が、どうやってこの大きな扉を開けた?)  どういう仕組みなのか、と扉ばかり見上げる利洲。 『……ねえ、お話しましょうよ』 『あ。……申し訳ございません』  そんな利洲に笑みをこぼしながら、緋依は利洲に声をかける。  一方、声をかけられた利洲は、トアの姫にまともに挨拶をしていない無礼さに気がつき、慌てて姫へと向き直ると、俊敏な動きでベッドの傍に駆け寄った。  そして、膝をついてその場に跪きながら、姫の顔を確認すると、聞いていた情報と違う、と困惑した。    身長も、容姿も雰囲気も。 「十三歳だなんて嘘だろ……い゛っ!?」 「……いつまでその様な振る舞いをしている気だ。頭が高い」    ぼうっと姫を見上げながら、思わず呟きを洩らした利洲の頭に、ゴッと細身の男の拳が落とされる。  男はあまり力のあるとは思えない容姿なのだが、頭部に走るあまりの激痛に、なんとか悪態を口に出すのはこらえたものの、利洲の目には僅かに涙が浮かんだ。
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