決めた道

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―――――― ―――  緋依の白い肌に不思議と映える利洲の血が、緋依の唇の端からこぼれ出て、顎を伝っていく。  真っ白なベッドの上に寝転がる利洲は、顎から滴り落ちる前に、自分の上に股がる緋依の顔に腕を伸ばして、そっと指で血を拭いとった。 『……』  利洲と緋依の視線が交差する。  モノタリナイ――そう、無言の訴えをされているのかと思ってしまうほど、利洲の腹の上に跨がる緋依は、憂えげな表情を浮かべていた。  対して、ベッドの上で仰向けになる利洲は、好いた女との交尾でもこんなに貪欲に続きを求めたことはないんじゃないかというほど、この行為に満足していた。  自分と姫の温度差は何が原因なのだろうか、吸われる側しか満たされないようなものなのか。  利洲がそんなことを考えていると、緋依の髪が一房、利洲の頬ヒレを掠めた。  こそばゆい感触に、利洲は反射的に目を細める。  『……ごめん、庵』 『……』  このタイミングで、何故緋依が庵に謝罪をするのか――何故か、利洲の頭に浮かぶ答えは、ひとつしかなかった。 “恋慕”  だが、同じ瞳の色をもつ二匹の関係は複雑なものなのかもしれない、と。  触れてはいけないことなのでは、と。  利洲の脳内の奥底では、そう警告する自分がいた……のに。 『……庵が姫様の餌となったのは、何故ですか』  どうしてか、気がつけば利洲は緋依に問うてしまっていた。  『……庵を"庵"と呼ぶなんて、随分度胸があるのね』  “庵”の名に、憂えた表情を崩し、緋依が笑う。  そして利洲の首筋から顔を離していくと、利洲の腹の上から降りて、ベッドの端に腰かけた。  なくなった温かさにもの寂しさを感じつつ、利洲は体を起こしベッドから降りると、緋依の前で跪いた。 『庵が餌になったのは、私が産まれた三日後に、たまたま庵が産まれてしまったからよ』
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