決めた道

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『たまたま、ですか?』  利洲の眉が訝しげに寄る。 『利洲は……そっか、海の底にはまだ伝わっていないのね。“消された歴史”って、聞いたことないでしょう』 『……はい』  利洲の答えを聞いた緋依は、そっと瞼を閉じて、ゆっくりと息を吐き出した。   『……私には双子の兄がいる』 『緋恋様、ですか』 『そう。そして私か緋恋のどちらかに、今は亡き王、緋羅の魂が転生していると言われているわ』  緋依は、自分とその兄には王の血は通っていないとも続け、その理由も話した。  何者かに襲われた王妃の妊娠、王妃の出産を反対する一族を振り切って、王が考え出した決断。 『もちろん、城の中は揉めに揉めたわ。私を支持する者である"姫派"と、兄を支持する"王子派"、どちらでもない"穏健派"と、どちらであってもいいから別の者を王にしようと考える"過激派"……一族は四つの派閥に分かれてしまった』 『……』 『本来なら、王族の子は産まれた直後に、数匹の“餌”が与えられる。王の直系に近づきたいと、自らの子を王子や姫の餌にしたがる者は多いわ』  ――貴方の一族みたいにね、と続けた緋依の左手が、緋恋の頬ヒレに優しく触れる。  こそばゆくて肩をあげた利洲を見て、緋依は可笑しそうに目を細めた。  利洲は引っ込められた緋依の手を目で追うと、その手は緋依の腰横のベッドの上に置かれた。  ベッドの白いシーツに、ぐしゃりとシワがよる。 『……候補者全てを餌にするわけにはいかないから、身体的に血液的に適合する者を、餌を与えられる“主”の親戚と元老会が厳選する』 『……』 『お兄様の方は問題なく数匹候補があげられ、無事に三匹の餌が与えられたわ』 『……』 『けれど私の場合、厳選するどころか、私の餌を希望する者すらいなかったの』 『……』 『王位が与えられる緋恋ならともかく、私みたいな曰く付きの姫の餌になんか、みんなさせたがらなかったみたい』  とても重たい内容の話だろうに、緋依の口調は軽く、深刻さを感じさせない。  ――ただ。  『でも一応私も姫だし、餌を与えないわけにはいかない。どうするかと頭を抱えていたところに、王家内でも末端の者に、子が産まれた』 『……それが、庵なのですね』  利洲が話の先を読んで確認したそのときだけは、緋依は眉を八の字にして、悲しそうに笑った。
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