決めた道

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 緋依は首を元の位置に戻し、少しだけ、声のトーンを低くした。 『先日、庵が私の身代わりとなって、ある一族に拐われた……拐われたのは、僅か1日の間。けれど偶然と偶然が重なって、庵が戻ってきたとき、私は空腹状態だったの』 『……』 『歓喜と共に、私が庵から吸血行為を行うと、庵は倒れてしまったわ』 『……庵は、ヴァンパイアなのでは?』  ヴァンパイア一族は心臓を貫くか、身を焼き付くすかしない限り死することのない一族と聞いていた利洲は、思わず口を挟んだ。  緋依は、首を横に振る。 『倒れたからといって灰になることはない。でも、ヴァンパイアの力の源は“血”なのよ』 『……』 『他者に刺されて大量の血を体内から失ったとしても、残った血を使って力を使い、力を使って術を使える』 『……』 『その繰り返しが体内で行われ、私たちは生きている。“力ある者”と呼ばれる者は、一滴の血から得られる力がより多い者よ』 『……』 『末端とはいえ庵も王族の身だから、ある程度までなら、私が血を吸ったくらいじゃ負担にはならない』 『だが……庵は倒れた』  そう、と緋依は頷く。 『拐われたときにね……“釘”を打たれていたのよ、全身に』 『……ッ!』  “全身に”という言葉と共に緋依から放たれた殺気に、利洲の背筋に悪寒が走る。
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