決めた道

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 しかし、それは一瞬で、利洲が飛び退こうと前足に力をいれる前に、その殺気は収まっていた。 (……すっげ)  利洲は安堵の息を吐き出しながら、あまりにも見た目にそぐわない、緋依の圧倒的な力に、吃驚していた。 『……ヴァンパイア対策に作られたその釘は、血液を作り出す力を弱めるの。釘を抜いたとしても、効果は暫く続く。その釘で心臓を打たれたら、間違いなく灰になるわ』 『……』 『そして、庵が倒れてしまった日……たまたま鮫一族の長が城を訪れていた』  緋依が右手の人差し指を、利洲に向ける。  『そして話を聞いた長は、王家への忠誠の証として一族から餌を差し出しましょうかと王妃に提言した』 『……』 『それを王妃が受け入れたのかは、聞かなくてもわかるわよね』  利洲は暫くその指先を見つめると、ゆっくりと瞼を下ろした。   『だから、貴方も庵と同じ』 『……』 『運が悪かったのよ』  利洲は、ガリッと音がするほど強く歯を噛み締め、体を小刻みに揺らした。 『……長に仕えることが、俺の役目となるはずでした』   『……』 『それが俺の誓いでもあり、日々欠かさずこなしてきた鍛練は、その為にあった』 『……』 『だから、姫様の餌になれと長に言われたとき、貴女を恨みました』 『……』  利洲が立ち上がる。  空気が動いたのを察知したのか、ロウソクが利洲の体の周囲に集まる。 『何故俺なのか……偶然の一言で片付けられるなんて、たまったもんじゃない』  利洲が背から刀を抜き、刃先を緋依へと向けた。   ◇◇ ――――――― ―――――― ――…… 『!!』  静寂を引き裂く音が、利洲の耳に聞こえた。  少しの期待を胸に、利洲は顔を上げ耳を澄ませるが――駆け足でこちらに向かってくる足音が三匹分だと知り、落胆のため息と共に、無駄に"期待"をさせた者たちに腹立たさを感じた。  利洲は腰を上げて体を伸ばすと、肩を回した。骨が鳴る。 (今日もまた、"アホ共"が来やがった)  やがて、利洲の前に姿を表したのは、灰色のマントを羽織った、三匹のヴァンパイア――元老会の者だった。 『そこをどいてもらおう』  そのうちの一匹が、利洲の前に躍り出る。  あとの二匹は、代表者の後ろで綺麗に横一列に並び、構えた。
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