決めた道

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 利洲がどんなに目をこらそうとも、利洲の瞳は、目の前にある廊下ですら、ぼんやりとしか映せない。  城内の灯火がヴァンパイアの体質に合わせた明るさになっているから、深海の底で暮らしてきた鮫の目に合わないのは、仕方がない。  利洲が元老会や理苑の接近を察知出来たのは、踏み鳴らす足音を聞き取る聴力と、気配を察知する能力が長けているお陰だ。  しかし、それは天賦のものではなく、"いつか長の護衛となり、立派にその役をこなしてみせる"、その誓いを成す為に、厳しい鍛練に耐え抜いた、幼い頃の努力の賜物だ。  利洲は、あぐらを組んだ足の上に肘をのせる。  両手を重ねてその上に額を乗せた利洲は、瞼を閉じた。  そして、二度目の誓いをたてた約六千年前、緋依の餌となることを誓った日のことを思い出す。 ◆◆ ――――――― ―――――― ――…… “何故俺なのか……偶然の一言で片付けられるなんて、たまったもんじゃない”  刀の刃先を向けてくる利洲の顔を、緋依は静かに見上げていた。  利洲の表情は真剣なものだが、そこからは怒りは感じられない。 『……』  僅かに揺れる利洲の瞳が、自分を通して誰かを映していることに緋依は気がついていたが、利洲の言葉を待った。 『だが、今は……何故長が、俺を姫の餌に選んだのか、その理由がわかった。……貴女は、俺の母に似ている』  利洲の視線が、緋依から自らの刀に移る。 『貴女を守ることで、俺の罪を償え……その為に長は俺に命じたのでしょう』 『……罪?』  眉間にしわを寄せた緋依に、利洲は頷き、柄を握りしめる手に力を込めた。  ロウソクが刀に集まり、鱗で作られた刃が、妖艶に輝く。 『この刀は……亡き母の鱗で造られたものです』 "『!!』" 『母は、俺のせいで死んだ』  ローソクが通りすぎると輝きは消え、いつもと同じ、刀は深海の底のような群青色と黒が混じったような色となった。   『母の死に際を思い出す度に吐き気を催し、父に視線を向けられる度にその場から逃げ出した』 『……』 『守れなかった自分が憎くて憎くて仕方がなかった』 『……』 『逃げ続ける俺を引き留め救ってくださったのは長だ。そんな長にだからこそ、俺は先ほどの誓いを立てたんです』 『……』
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