決めた道

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 長の護衛とは、普段裏方で仕事をこなす長が、時として表舞台にたたねばならないとき、先陣をきって敵から長の命を守ることである。  当然、敵やその家族から恨みを買うことも多く、利洲は産まれてからたった十四年程の間に、何度も誘拐を経験していた。  利洲の父は、何匹かの部下を常に利洲と母親につけていたため、二匹は再三の襲撃を受けるも、命を落とす危機は逃れていた。  また、回数が増すごとに利洲も慣れてしまい、襲撃を受けるその危険に、“どうせ大丈夫だろう”と危機感を感じなくなってしまっていた。 『ごめんね』  しかし、利洲の母は、何度暗殺や誘拐を狙った襲撃を受けようとも慣れることはなく、利洲を強く抱きしめ、そう言っていた。  敵が悪いのであって、己は何も悪くないのに自分に謝る母の姿。   『大丈夫。気にしないで』  母の手を強く握り励ましつつ、何故母が自分に謝る必要あるのかと、利洲はいつも首を傾げていた。  "は、ははうえええ!!"  そんな利洲が、母を失ったのは、水面に映る月の光が海の底の天を幻想的に照らす、綺麗な夜のことたった。  利洲の父を狙った刺客は、利洲の寝室のふすまを乱暴に蹴り破り押し倒すと、利洲を布団から引きずり出した。  そして、利洲は首を掴まれ、畳に仰向けに押し付けられた。  殺されそうになった利洲を、利洲の母は文字通り盾となって守った。  真っ二つに引き裂かれた母親から飛び出た血が、利洲の全身に降りかかり、利洲は目の前が真っ暗になった。  部下を引き連れ駆けつけた利洲の父は、素早く敵を倒すと、妻の亡骸を強く抱き締めた。  小刻みに揺れる父の背に、利洲はその場から逃げ出してしまった。 (俺の所為だ) (俺が弱くて) (俺が生まれたから) (俺がいなければ……母上は死ななかった)    利洲は、襲撃を受けたその日から、父や師匠や仲間や世話係、誰にどんなに説得されようとも、自室に引きこもり続けた。
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