決めた道

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 庵に申し訳なさをぶつける緋依の姿に、利洲は、襲撃を受ける度に自分に謝る母の姿を思い起こしていた。  どちらも、自身に落ち度はない。  しかし、どちらも優しさに溢れるゆえに、己を責めるのだ。   『母に似ている貴女を守ることで、あのときの悔いを無駄にせずにすむ』 『……』 『俺は、俺の罪を償う為に姫様を利用します。だから貴女も、気にせず俺を利用してください』  馬鹿ね、と緋依は小さく笑った。 ◇◇ ――――――― ―――――― ――…… 『また、随分と迫力のある番犬ですのね』  塵取りとホウキを手にした蒼が、あぐらをかく利洲の前に姿を現した。  利洲と蒼が最後に顔を合わせたのはつい四日前。  その時も、蒼は右手に箒、左手に塵取りを手にしていた。  手際よく掃き取った灰を忌々しげに見下ろしていた蒼は、塵取りとホウキを宙に浮かせ、膝を抱えて利洲の隣に腰かけた。  利洲は指で頬をかき、蒼とは反対側に顔を背けた。  利洲は、蒼が苦手だ。 『あまりにも恐ろしすぎて、この扉の中に入ろうだなんて、誰も思いませんわね』  蒼にハッと鼻で笑われ皮肉を述べられても、利洲は苦笑いを浮かべることしか出来ない。  もし何か言おうものなら。 『……言いたいことがあるなら、直接どう『では遠慮なく。その前に顔をこちらに向けてくださる?話している相手から顔を背けて話を聞くだなんて、貴方そんな礼儀知らずな方ではないでしょう?そうそう、それでいいの。あの庵様に姫様の餌として恥じぬよう教育を受けたんですもの、しっかりしてくださいな。言葉遣いはなんとかなったようだけれど、そういった仕草は意識しないとうっかり出てしまってますわ。本当に大切ですのよ……で私(わたくし)が言いたいのはね』  蒼にかかれば、百倍になって返ってくるからだ。
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