決めた道

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 背丈的に利洲が見下ろす格好になっているにも関わらず、利洲は蒼から飛ばされてくる鋭い眼光に縛り付けられる。  しかし、ふいに利洲は、蒼の背後にある"それ"に気がついた。  そして一瞬だけれど、利洲は意識をそちらに向けた。  すると、素早く察知した蒼がスッと無駄のない動作で立ち上がり、――ミシッ――と滅多に鳴かない"それ"が悲鳴をあげるほど、蒼は"それ"を強く掴み取った。  黒く鈍い光沢を放つ物質で造られた四方形の面と、その三辺を囲う小さな壁と真ん中の囲いに取っ手。 『私は貴方のやり方が……排除の仕方が間違っていると言いたいんですの』  面の上に白と黒を混ぜたような色の粉が乗っている“それ”――蒼が使った、塵取り。  蒼は塵取りを斜めに傾け、床であぐらをかき座る利洲の肩に、灰を乗せた。 『……』  その行為も、言われた言葉も。  そうされ、そう言われなければならない意味も、利洲にはわからなかった。   『……間違っているとは、この部屋を私が守ることがですか』  苛立ち気味に問いかけた利洲は、目を少し釣り上げ、蒼を見上げた。  利洲は問いかけたあとに、また強く毒を返されるかもしれないとも思ったが、蒼は至極落ち着いた様子で、利洲の問いに返した。 『そうとも言いますわ。けれど、少し違いますわ』 『と、言いますと』 『貴方の排除の仕方か間違っている、そう言いましたでしょう。その言葉の通りですわ』 『……』  まだわからないんですの、と呆れの吐息を漏らした蒼は、手にしていた塵取りを宙に戻し、再び利洲の隣に腰かけた。 『貴方はこの扉の前で何度灰を散らかしましたの?何度私たちに穢らわしい灰の片付けなどをさせたと思っていますの?』 『……』 『何度貴方が侵入者共を片付けたところで、また愚かな侵入者はやって来ますわ』 『……それでも私は姫様のた『話は最後まで聞きなさい。女の話を途中で遮るなんて、無礼かつ男として恥ずかしい行為。マナー違反にも程がありますわ。お分かり?』  頷き黙るしかない利洲から、蒼はふいと視線を外し、利洲には見えない廊下の先を、青い瞳で見据える。
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