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主に血を与える為にある餌の肉体は、主が死なない限り死への衰えを止める。
実は、利洲と蒼はほとんど同じ歳なのだが、百歳ぐらいの頃のまま成長が止まっている利洲とは異なり、蒼の顔には年相応の、無数のシワが顔に刻まれている。
そんな蒼の口から出たのは、排除の仕方から飛躍した話。
『お帰りを待ち続けることが果たして正しいことなのか……貴方は悩みませんの』
ぽつりと漏らした横顔からは、先ほどまで浮かんでいた利洲への呆れよりも、誰かを想い、憂える哀愁を感じた。
『自ら望んで出ていかれたあの方のお帰りを望むことは、あの方の意に逆らうことになるのではなくって?』
『それは、』
誰を思っているのかは、一目瞭然。
『蒼様にしては……愚問ですね』
――しまった、言い方が悪かったかもしれない……と、利洲は頬を引きつらせたが、もう遅い。
みるみるうちに釣り上がっていく蒼の目尻。
これは、また途切れることのない説教がくるかと思い、利洲は身構え、蒼の言葉を待った。
だが、蒼は何も言わず、目尻を吊り上げたまま目配せで利洲に続きを促した。
(なるべく蒼様の気を逆立てないようにしねぇと)
利洲はタラリと額を流れた汗を頭を拭い取り、天井を見上げた。
(……姫様)
もちろんそこには見慣れた天井があるだけで、特段変わったものは何もない。
しかし、利洲はその天井に、純白のドレスを身に纏い、庵と寄り添い合い、目尻を垂らして頬を染める、緋依の幸せに満ちた笑みを思い浮かべた。
『私は、姫様のお帰りを望んでいます。ですが……望んでもいません』
利洲が無意識に自分の目が細くなっていたことに気がついたのは、
『言葉足らずで、私には伝わりませんわ』
訝しげに眉を寄せる蒼の顔が、やけにぼやけて見えたから。
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