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木々が生い茂り、月の光すら通さない森の中、金色の腰まで伸びる長い髪を持つ少女と、緋色の瞳の男女が向かい合っていた。
背を木に預け、男と女――緋依と庵を鋭い形相で睨み付ける、金髪の少女。
少女の右腕は、指先まで虎の毛で覆われており、爪は、鋭く長い。
金髪の少女の目は、ゆらゆらと怒りに燃えているが、それはまるで“強くあれ”と、無理やり自分を奮い立たせているようにもみえる。
一方、寄り添いあうように立つ緋依と庵の視線は、少女の左肩の皮膚に刻まれている、十字の刻印に向けられている。
(お前らが、見るな)
二匹の視線に気がついた少女は、サッと、隠すように右手で自らの肩を覆った。
『……私が憎い?』
少女にむけ発せられた、悲しみを帯びた、緋依の声。
『なに……を』
その声を聞いた少女は、自身の全身の毛が、ブワッと一気に逆立ったのを感じた。
『――っ、当たり前だろうが!!』
そして、怒りが胸を支配し恐怖がどこかへ消え去った少女は、衝動的に、爪を立てて緋依に飛びかかろうとした。
『速さは素晴らしいですね……動きは読めますが』
――しかし。
『ぎゃん!』
すかさず割って入ってきた庵に腹を蹴られ、少女は背から木の幹に打ち付けられた。
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