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 音を立てて木の根本に落下した少女は、あまりの痛みに腹を押さえ踞った。  生理的に出てきてしまった涙で霞む視界。  だが少女は、――ジャリ、と近づく足音を聞くと、慌てて体を起こした。 『!?』  ところが、少女が体を起こした頃には二匹の姿は消えており、少女は慌てて周囲に気を巡らせた。 『当たり前、よね………憎いから私の命を狙ったんだものね』 『――っ!』  背後からの声と共に、少女の両肩に置かれた、細く、暖かい手。 『……姫様』  姿をみせない庵の緋依を咎めるような声が響くが、緋依の手は少女から離れない。  殺されるかもしれないという恐怖心からか、会いたくて殺したくて仕方なかった者にやっと対峙できた、歓喜からか――少女の呼吸が、再び荒くなっていく。  少女は緋依を視界に捉え、頭を横に振って、肩にかかる自身の金の髪を払った。 (――"お前の髪は、美しい"と、頭を撫でてくれたあの人は、もういない)  胸が苦しくなる。  呼吸が荒くなる。 『フゥー、フゥー、』  少女を見る緋依の表情は、相変わらず悲しそうに歪んでいる。  それが少女にはとても可笑しく思えて、腹立たしくて、……憎くて。  少女は再び飛びかかりたい衝動に駆られた。 『フゥー、フゥー』  しかし、腹から広がる鈍い痛みと、いまだ姿を見せない庵の視線が、少女の動きを本能的に制止させた。 『貴女は、死にたいの?』  肩を上下させ睨み上げてくる少女にも、動じた様子を見せない緋依は、少女にゆっくりと問いかけた。
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