②

7/28
前へ
/157ページ
次へ
 虎一族の長がさらってきたヴァンパイアは、少女とあまり変わらない年齢にみえる男の子だった。  漆黒の髪のその男の子は、街の広場に設置された大きな十字架に張り付けにされ、長の手によって、その体に何度も杭が打ちつけられた。  左手。  右手。  左耳。  右耳。  左膝。  右膝。  ”これは、これから行われる"革命"の前の一種の祭事だ”。  そう父に言い聞かせられていた少女は、痛みに苦しむ男の子を哀れに思う心すらもなく。  三男の兄と母に両手を繋がれ広場を訪れ、拳を突き上げ興奮する大人たちの中に埋もれながら、杭を打たれる度にうめき声をあげる漆黒の獣を、静かに見守っていた。   『我等一族がこのトアを統べるのだ!!』    やがて数十分が経った頃、そう叫んだ長は杭を男の子の額へと打ち付けた。  男の子は今までで一番大きな呻き声をあげ、やがてだらりと首を垂らし、ピクリとも動かなくなった。  広場は一瞬シンと静まり返った。  そして誰かの唾を飲み込む音が聞こえたと思ったら、広場に集まっていた全員が雄叫びをあげた。  肩を上下させ興奮する長は、男の子にトドメをさした杭を、民に見せつけるかのように掲げ、その煽りに応えるかのように雄叫びの声が大きくなる。
/157ページ

最初のコメントを投稿しよう!

170人が本棚に入れています
本棚に追加