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思わず耳を塞ぎたくなるような声の嵐の中、男の子を見つめていた少女は、ふと、違和感を覚えた。
右手を軽く揺すって、おとなたちと同じように興奮している兄を呼ぶ。
『ねえ、にいさま』
『ん?』
『あのね、ヴァンパイアって、……しんだら灰になるんだよね?』
『そうだよ』
『なら、あの子まだしんでないんだね』
灰になっていないんだもの、と続けた少女は、兄と母の手を強く握り直した。
少女と兄の会話を聞いていなかった母が首を傾げる一方、兄は『大丈夫だよ』と少女を安心させるように優しく笑った。
『あの子を生かしているのは長の意思』
『長の?』
『そう。あの子にはまだ祭を盛り上げてもらわなくちゃいけないんだ』
『でも……あの子にげちゃうかもよ』
『あはは、大丈夫大丈夫!……どんなヴァンパイアであろうとも、あの杭からは逃れられないよ』
幼い少女には杭の説明を細かくしてもわからないだろうと判断した兄は、それ以上何も言わなかった。
そして少女も、兄のいつも通りの優しい笑顔にそれ以上何も聞かなかった。
確かに少女の兄が言うように、対ヴァンパイア用の杭を全身に打たれた男の子が――庵が動くことは出来なかった。
――しかし。
『庵様を発見しました……首謀者は虎一族の長。長の企てに反旗をあげる民無し。庵様の容態は……』
長は、いや虎一族は、もっと恐ろしいモノを呼び寄せてしまった。
『……どうされますか、姫』
『愚問ね』
『……』
『虎一族に、王家への侮辱としての制裁を』
『御意』
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