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虎一族が庵を捕らえ、まつりごとを行った、翌日の朝。
『葉ちゃん』
『あ!かーくんだ!』
少女が母と手を繋ぎ日課の散歩に出掛けると、家門の前で、見知った男の子に遭遇した。
かーくん、もとい香月(かつき)。
香月は、虎一族の長の家系の末端の者で、香月の父親と少女――葉(よう)――の父親は旧知の仲である。
そのため香月と葉は、産まれた時から互いの家をよく行き来していた。
そして葉は、幼いながらに香月に恋心を抱いていた。
葉は掴んでいた母の手を離し、香月に駆け寄ると、ギュッとしがみつくように抱きついた。
『かーくん、どうしたのー?』
『なんか朝起きたら葉ちゃんに会いたくなっちゃって』
『えっ、』
『雅(みやび)さんもおはようございます』
葉が顔を火照らせているのを横目に見つつ、目尻を下げ優しく笑った香月は、ペコリと葉の母に頭を下げた。
そんな香月に葉の母もにこりと笑い『おはよう』と返し、『かーくんがいるなら私はいらないわね』と言って、葉を香月に託し家の中へと戻って行った。
『葉ちゃんどこ行きたい?』
葉の右手を優しく掴んだ香月は、葉よりも三っつ歳上で、葉よりも頭ふたつ分ほど背が高い。
葉は香月の手を握り返しながら、うーんと頭を悩ませ、香月の顔を見上げた。
虎一族の特徴である白い肌と、サラサラと手入れが施された金色の髪。
また、少し長めの前髪を左に分けて、女の子のようにピンで止めている。
他の男の子がやったら眉を寄せてしまいそうなその髪型も、はっきりとした二重の目の可愛い顔立ちの香月ならば、お洒落に思えて許せた。
『かーくんかっこいい』
『え、どうしたのいきなり』
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