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『葉ちゃん、本当にココで良かったの?』 『うん』 『俺は別にいいけど……変な疑いがかかる前に、少ししたら別のとこ行こうね』  変な疑いって何だろう、と少し疑問に思ったけれど、葉は深く考えないまま目の前の“ソレ”をじっと見上げた。  葉の肩に乗っていた横髪が揺れ胸へと落ちると、香月が葉の頭を優しく撫でた。  葉が“ソレ”から目を離し隣に立つ香月を再び見上げると、香月は優しく微笑みを浮かべた。 『やっぱり、葉ちゃんの髪は綺麗だねえ』 『かーくんそれいつも言うよね。かあさまがといてくださるからだよー』 『雅さんに感謝だなあ。俺、葉ちゃんの髪触るの大好き』 『その話にいさまたちにしたらね、“このむっつりがー!”て言ってたよ』 『ぶはっ』  お腹を抱え笑いだした香月に葉は『かーくん?』と首を傾げた。 『そっかあ、むっつりかあ……否定は出来ないなあ』 『かーくん、むっつりってなあに?』 『ぶはっ、内緒!そのうち葉ちゃんにもわかるよ』  あんまりわかって欲しくないけど、とまた笑った香月は、葉から“ソレ”に視線を移した。  教えてもらえなくてふて腐れそうになっていた葉も、香月と同じく“ソレ”を見上げた。  葉が香月に連れて来てもらったのは、昨日と同じ中央広場だった。 『かーくん、みんないないねー』 『みんな、“彼”にはあんまり近寄りたくないんだよ』  昨日とは打って変わり、広場は閑散としている。  十字架に打付けられた庵を見上げている葉と香月以外には、辺りを警備している長の部下の四匹しかいなかった。 『どうして?』 『恐ろしいからかな、たぶん』  庵には相変わらず……いや、昨日葉が見たときよりも、更に多くの杭がその身に打たれていた。 『ふーん』 『……まあ、あの杭の前では彼も何もできないだろうけど』  香月はそんな“男の子”を痛々しげに見ていたけれど―――葉は、庵のその姿を見て、ホッとしていた。  満足げな表情を浮かべる葉に気がついた香月は、首を傾げた。  しかし、香月は警備員の者たちにあらぬ疑いをかけられる前に、早くこの場を去りたかった。 『葉ちゃん、そろそろ行こうか』  だから感じた疑問に特に触れることなく、葉の手を引いた。  
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