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 葉は、頬や額に口付けを受けることは兄たちによくされていたから慣れていたのだが、“唇に”というだけで、なんだか胸がどくどくと高鳴った。   ◇◇◇ ――――― 『……ただいまー』  『お邪魔しまーす』  唇に触れるだけの口付けを終えた香月は、相変わらず優しい目で、頬を赤く染める葉を見下ろしていたけれど、香月の表情にはどこか寂しげなものが浮かんでいた。  そして口付けには何も触れず、葉の手をとってベンチから立ち上がると、公園を出て、葉を家まで送り届けた。  いつものように家門をくぐり庭を抜け、少し古い玄関の扉を音を立てながら開ける。  ――途端、溢れ出てきた異臭。  ただでさえ、虎の嗅覚は優れている。  鼻が潰れてしまいそうなほどのあまりの臭いに、葉は思わず眉を寄せ、空いている左手で鼻を押さえた。  葉が隣にいる香月を見上げると、香月は唇を薄く開いて目を大きく見開き、呆然とした様子で固まっていた。   『かーくん』 『あ、』  どうしたの、と葉が香月の腕を揺すりながら呼び掛けると、香月はハッと固まっていた表情を崩し、葉を見下ろした。  香月は、異臭の正体が“大量の血液”によるものだということを察していた。 『……葉ちゃん、一回俺んち行こうか』
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