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―――――― ―――― 『!』  香月と別れ二時間ほど走り続けていた葉の目の前に、木々の間からサッと黒いシルエットの何かが飛び出てきた。 『だれっ』  瞬時に立ち止まり警戒した葉は、兄に習いかけだった獣化を行い、右腕だけ虎の腕に変え、爪をたてて威嚇した。  けれど――。 『……』 『――っ!?』  現れた者を見た瞬間、葉の全身から血の気が引き、葉は体の震えが止まらなくなった。   『あ……あ……、』  そんなはずない、どうして、いや、何で……叫ぶ心とは裏腹に、葉は声を出すことすらままならない。 『……お前はまだ成獣に達していない女子(おなご)だから殺しはしない』 『や……かーくん、』  細く、しなやかな手足を持つ黒い獣。  全身を覆う黒い毛の左半身には、先ほどまでにはなかったはずの鮮血をまとい、覗き見える鋭い牙は赤く染まっている。 『女子には手を出すなとおっしゃられる姫様は……ある意味残酷だな』 『かーくんは!?』  淡々と話す黒豹。  叫ぶ、葉。 『残され生かされる苦しみをご存知のはずなのに』 『かーくんはっ、かーくんは!?』  獣の呆れるようなつぶやきと葉の叫びという、会話にならない会話。  だが黒豹は、葉の取り乱れ様に気分を害した様子もなく。 『なんなら刻印を刻むのではなく少年と同じ死を与えてもいいが……どうする』  ただひたすら淡々と、葉に問いかけた。
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