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 一歩、一歩、また一歩。  黒豹はゆっくりとした足取りで葉の方へと近づいて来る。  黒豹が一歩踏み出す度に、枯れ葉を踏み潰す乾いた音が空気に響く。  一歩、一歩、また一歩と、葉に向かって歩み寄る黒豹。   『あ……あ……』  葉は足を震わせるだけで、恐怖のあまり身動ぎひとつすら出来ない。  二匹の間に、少し肌寒い風が吹く。  黒豹の体格は全体的にスラリとしているが、四足歩行でも二足で立つ葉よりも頭の位置は高く、葉はその威圧感に押し潰されそうになる。 (こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい、こわいよ……かーくんっ、)  葉の両の目から、こぼれ落ち始めた涙。  もう自分は殺されてしまうのだと思った葉は、香月の笑顔を思い浮かべた。 『……え、』  ――ふいに。  葉の一メートルほど前まで来ていた黒豹が、動かしていた脚を止めた。  そして、そのまま、まるで猫のように体を丸め、その場に寝転がった。 (いま、なら……)    葉は突然の黒豹の行動が理解出来ず困惑しつつも、黒豹から距離をとるために、こっそりと後ろ足に体重をのせた。    しかし。  すかさず黒豹の赤い瞳が、葉を捉えた。  黒豹から発せられた“威圧感”を獣の本能で感じとり、葉の体が動きを止める。 『……逃げることなど出来ないだろうに』  黒豹はため息を吐き、呆れたとでも言いたげな声を落とすと、視線を葉から外し、頭を動かして空を見上げた。 『“葉ちゃん、大好きだったよ”』  黒豹が、赤黒さを残す牙を覗かせながら、言った。
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