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 葉が餌として、名も知らぬ主の屋敷に飼われてから数十年が過ぎた頃……葉の主の屋敷には、主の親戚と名乗る男と、その男の餌である女が訪ねてきた。 『葉月様!?』 『え?』  そして、その餌の女を目にした瞬間、葉の胸には歓喜が溢れた。  女の髪は紛れもなく虎一族特有の金色の髪。 、そして優しげな柔らかい声と、特徴的な右目の下の泣きボクロ。  女は、虎一族長の末娘であり香月の親戚でもある、葉月(はづき)だった。 『葉月様!!』    葉と葉月は、香月と共に幾度となく遊んだことがあり、互いに気心知れた仲だった。  突然の再会に葉は両手を広げ喜び、女に飛び付いた。  ――けれど。 『あの……どこかで、お会いしましたっけ?』 『――……え』  上から降ってきた何の冗談も感じさせないその声に、顔を強張らせた葉は、恐る恐る顔をあげる。  葉よりも少しだけ高い位置にある葉月の顔を見上げ、そして“本気”で何も覚えていない様子の葉月のきょとんとした表情に、葉はふるふると首を横に振り愕然とする。  “葉ちゃんと葉月は名前も似ているね”  そう、優しく笑い自分たちの頭を撫でてくれた香月の笑顔が、葉の脳裏に過った。 『そんな……まさか、』  葉の背筋に冷たい汗が流れる。  まさかまさかまさか、と嫌な叫びばかりが脳裏に響く。 『きゃっ!?』  そして葉は、無礼という言葉を忘れ葉月のドレスの胸元を両手で掴みあげ、揺さぶった。 『何ですか!?』  悲鳴をあげる葉月。  葉は構わず叫んだ。 『葉月様っ!! 本当に忘れられたのですか!?』 『だから何を、』 『もしや、一族のみんなや、かーくん、父君の、長のことも――きゃっ!?』  戸惑う葉月に詰め寄り続けていた葉の首を、誰かの手が強く掴み、思い切り後ろに引いた。 『俺の大事な餌に、余計なことを言わないでよね』  勢いあまり後ろに倒れそうになった葉の背は、その誰かの胸に受け止められる。
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