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 そしてその誰かは、鼻で葉の首回りに鼻を近づけ匂いを嗅ぐ。 『なにを、――ッ!!』 『ん、いい匂い』  思わず身じろいだ葉のワンピースの襟元を強く引っ張り―― 『っんあっ!!』  ――首筋に、深く牙を突き立てた。 『おいおい、勝手に俺の餌を取るなよ。葉、こっちに来い』  事態が飲み込めないまま無理矢理快楽へと落ちていきそうになる葉の耳に、葉の主の声が届いた。 『…ふっ…んあ…』  しかし葉にはこの快楽から抜けだす術などなく、お腹の周りに回された男の腕に身を預けてしまい、背後の男も葉から牙を抜こうとしない。 『……やっ…あっ』 『うま………』 『ちっ、くそが!! おいそこの女!! 代わりにてめえで我慢してやる、来い!!』  苛立つ主の怒鳴り声に、快楽に溺れ火照っていた葉の顔から一気に血の気が引く。 (葉月様が危ない!) 『だ………めっ』  ぼやけ始めた視界の端に、葉月の腕を強く引く主の姿が映り、葉は反射的に口にしていた。 『っんっ!!』 『……ご馳走様』  すると、それを聞き取った葉の背後にいる男は、突然、葉の体から牙を抜いた。  そのまま男は葉の体を主に押し付け、葉月の腕を掴んだ。  葉の主は訝しげに眉を寄せ、腕をひかれた葉月は相変わらず事態が飲み込めずきょとんとした表情を浮かべている。 『この子はお前の方がイイらしいね』 『はあ?』 『それに葉月は俺のだよ……葉月、おいで』 『はい、喜んで!!』  葉の耳には嫌に響く、葉月の期待に満ちた明るい声。  葉はかたかたと肩を揺らし始める。 (なん……で……?いや、嫌だ、止めて、見たくない!!)  葉の叫び虚しく、葉月は男に嬉しそうに身を預け、ゴクッと男が喉を鳴らす度に、悦びの声をあげていた。  かつて慕っていた姉のような存在の者が、親や仲間、大切な者たちを殺した憎むべき相手に屈するどころか求めているその姿に耐えられず、葉は視線を反らした。 『……成る程な、そういうことか』  葉の表情で葉が何を考えているのか悟った主は、片方の口角をあげ歪な笑みを作った。 『ほら、お前もあんな風になった方が楽だぞ』  葉の主は呆然とする葉の視界に葉月の姿が映る位置で、後ろから強く葉を抱き締め、そのまま牙をつきたてた。
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