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『緋恋様、帰りはどうなさいますか?』
『歩くのも飽きたし、転移するよ……おいで』
吸血行為後、手短に主への用件を済ませた男は、葉月を連れて屋敷を去った。
『またね』
去り際に男が葉へと振り返り意味深な笑みを浮かべたとき、葉はびくりと肩をあげた。
葉の主は、二匹の姿が無くなると、葉月の腕を掴み葉の寝室へと転移した。
主が城内で葉と共に転移することはよくあることのため、葉は然程驚かない。
それよりも、葉は葉月と先ほどの男のことで頭がいっぱいのようだった。
主はベッドの端に座り、葉を自分の足の間に座らせた。
『あの虎の女が、お前を覚えていないのも無理はない』
葉を後ろから腕で包み込みながら、嘲笑うような口調で、今まで葉に話したことのなかったことを話し始めた。
至極、可笑しそうに『苦しんでいるのはお前だけだ』と言って。
『緋依様はお前たちが苦しまずに餌として生きられるよう、主となる者に譲り渡す前に、お前らの親共が起こした“愚行”の時の記憶、また一族として過ごしてきた記憶を全て消し去り、他の記憶に書き換えたんだ』
葉の髪の先を指で弄びながら、いつになく饒舌な主は葉に真実を教えていく。
『そん……な、葉月様だけでなくみんななの……?』
『そうだ。俺も変に復讐心燃やされるよりも、お前たちを扱いやすくなるだろうと思っていた……お前が来るまではな』
『でも……私は、』
『だからさあ、何故か一匹だけ記憶を残すお前が異常なの』
『……』
『あの姫様にもミスはあるんだと、凄く驚いたよ俺は。お前が来たとき直ぐに報告しても良かったんだろうけど、俺って従順なヤツより反抗的なヤツ苛める方が、』
好きだからさ、と続けた主の言葉の上に、葉は『……良かった』と重ねた。
『……ま、お前ならそう言うだろうと思ったけどな』
遮られたところで主は特に気分を悪くした様子も見せずにそう言った。
このとき葉は、姫よりも主の方が“お優しい”という言葉が似合うと思った。
むしろ姫のしたことは“お優しい”なんてものではない……誰が憎しみを無くして欲しいと望んだろう、誰が愛しい者たちの記憶を奪って欲しいと望んだんだろう――それは優しさなんかじゃない、侮辱という言葉では言い表すことの出来ないほどの、酷い仕打ちだと、葉は思う。
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