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 もしも、自分から父や母、兄や弟たち、そして香月の記憶が奪われていたかもしれないと思うと、葉はゾッとした。  そして同時に、今まで自分を包むこの腕の温もりに守られていたことにも、ゾッとした。  思い返すとこの何十年間、口で罵倒されることは多々あっても、この腕が自分を苛めるのは、吸血行為で逃がさぬよう捕らえる時だけだった。  血を吸われているときは快感が、それ以外の時は常に憎しみが支配していた葉の心は、一度だって主を“怖い”と思うことはなかった。  それなのに、葉は今、初めて主の存在が怖くなった。 『――何を考えているのか知らねえけど、俺のことは憎んだままでいいんだからな』   『何を、』  葉が主の腕に視線を落としていると、主はいつもの嘲笑うような口調で葉に言う。   『俺はお前にとって憎むべき相手だろうが』 『っ、』  何故。  いつから主はこの温かい両腕で、葉の“復讐心”を守ってくれていたのだろうか。 (怖い) 『俺を憎んで……離れるな』 (怖い) 『にしても俺、お前のこの髪だけは綺麗だと思うぜ』  ――憎めなくなることが、怖い。
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