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 主が何故そんな風に笑うのか、主は何故自分に優しくするのか。  香月に恋い焦がれたあのときのように、ただひたすらに純粋だったあの頃のように、主に疑問をぶつけることなど、今の葉には出来ない。  葉は、主の視線から逃げるようにカグラを見上げ、目を細めた。  ようやく蕾をつけ始めたカグラ。  カグラの花が花開くとき、果たして、主の隣に自分はいるのだろうか、と葉は自身に問う。 『……ねえ』 『ん?』  そして、その答えはやはり否しか出てこない。   『どうすれば……いつになったら、解放してくれるの』 『……』  罪悪感に蝕まれながら、四千年も隣に立ち続けることなど、葉には堪えられないのだ。    葉は涙を浮かべた。  だが、それを流すのはこらえた。  ただ純粋に、今は泣きたくない、と思ったからだ。 『……』  葉の主は落ち葉を踏みしめながら、ゆっくりとした足取りで歩みを進めると、静かに葉の前に立った。  目の前に立たれた為に、自然と、葉は主を見上げ、二匹の視線が絡み合う。  しかし、一秒と経たずに葉は気まずさから顔を左に向けた。 『……こっち向けよ』 『っ、』  すると、葉の主は右手の細長い指で葉の顎を掬いとり、無理やり葉の視線を自分に向けさせた。 『何よ……放して』  動揺する葉の声を無視して、主は葉を見下ろす。 『泣きたいなら、泣けよ』 『何で、』 『どんだけ泣いても、解放はしてやんねえけど』 『っ』  ハッと鼻で笑う主に、葉は目尻を吊り上げ、ギリッと歯を噛み締める。 『殺してやらねえ、逃がしもしねえ。お前にとっちゃ生き地獄だろうが……俺が死ぬまで、お前は俺のもんだ』  一瞬、主の目に陰りが差したのだが、肩を震わせ興奮している葉は、気がつかなかった。 『殺してよ、』  葉の目尻から涙が溢れ出て、雫が地面に落ちた。 『……無理』  主は葉の顎から手を離すと、右手を葉の頭に回し、左手を葉の腰に回して、葉を抱き締めた。
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